公募の市民委員、異例の市長決定
- むにゅー編集長
- 2022年4月16日
- 読了時間: 4分
更新日:2022年4月30日
武蔵野市が5月から開催する「多文化共生推進懇談会」の公募委員の選定方法を巡り、一部の市民から物議を醸しています。市報むさしの4月15日号や武蔵野市のホームページに同13日に掲載された募集要項によると、公募するのは日本国籍1人、外国籍1人の計2人で、作文を提出し市長が決定します。わずか2人という公募委員の少なさもさることながら、作文による選考は松下玲子市長のイデオロギーに近い人を選ぶ結論ありきの懇談会にならないでしょうか。
■総務省が推進し各自治体が策定
■本来は住民サービスの向上が目的
■見え隠れする住民投票条例の影
プラン策定の自治体は約半数
この懇談会は総務省が推進する「地域における多文化共生推進プラン」の策定、見直しの要請を受けて、武蔵野市のプラン策定委員会の検討に資するため、意見や助言受けるものです。総務省によると、令和3年4月時点で多文化共生の推進に係る指針・計画を策定したのは、全国の1788自治体(都道府県と区市町村の合計)のうち、半数強の903にとどまっています。策定していない885自治体のうち、「今後も策定の予定もない」と回答したのは823あり、必ずしも全国の自治体が策定しているものではありません。
防災や地域活性化が本来の目的
旗振り役の総務省は令和2年9月にコロナ禍を受け「地域における多文化共生推進プラン」を改訂しました。「多様性・包摂性のある社会実現の動き、デジタル化の進展、気象災害の激甚化といった社会経済情勢の変化に対応することが必要」が改訂の狙いです。具体的には、ICTを活用した行政や生活情報の多言語化の推進、災害発生や感染症の拡大に備えた情報発信や相談体制の整備など行政サービスの向上があげられます。さらに外国籍住民と連携することで、多様な視点を取り入れ地域の魅力を発信、地域産品を活用した起業を促進するなどして訪日観光客(インバウンド)の獲得を目指します。外国籍の住民が地域活動に参加して、自治体活動や防災活動の担い手になることや、受け入れ体制の整った自治体を増やすことで現在は都市部に集中しがちな外国籍住民を地方に分散させることも掲げています。
例えば、中華街などを抱え国際色豊かな横浜市は、多文化共生を都市経営戦略と位置づけ、「横浜市国際戦略」を平成28年に策定、令和3年に改定しました。重点的な取り組みとして国際会議などの誘致、外資系企業や海外人材、インバウンドの推進、市内企業の海外進出支援などを主に経済対策を柱にしています。
イデオロギー実現の道具ではない
武蔵野市には約3500人の外国籍住民が住んでいます。大規模災害や感染症から、国籍問わず全ての人の命を守る必要があるのは言うまでもなく、防災や災害情報の多言語発信は最優先で取り組まなければならない課題です。しかしながら、武蔵野市のホームページは英語や中国語、韓国語の表示がなされるものの、「自動翻訳システムによる機械翻訳のため、必ずしも正確な翻訳であるとは限りません」と注意書きをしている状況で多言語発信はお粗末と言わざるを得ません。
武蔵野市は昨年12月の市議会に3か月以上市内に居住するすべての住民が投票可能な住民投票条例案を提出しました。本来であれば最優先で取り組むべきは外国籍住民に対する行政サービスの向上であり、外国籍の住民が自治会や防災活動の担い手に加わって地域社会に溶け込んでいくことが先決です。こうした機運が高まって初めて住民投票への参加の是非を議論するのが本来の進め方です。松下市長は順番を逆転させた格好で、まず住民投票条例案の制定を目指し、否決後に後付けのような形で多文化共生推進プランの策定に走るのは、本来の目的を見失っているとしか思えません。わずか2人の公募市民にどのような方を選ぶかはこれからではありますが、松下市長のイデオロギーに近いかどうかではなく、防災や地域活性化に外国籍住民の力をどう活かすかとの視点を持つ人を選ぶのが望ましいと考えます。多文化共生推進懇談会は住民投票条例案の再上程の口実づくりでも特定のイデオロギー実現の道具でもありません。懇談会の議論が総務省の指針に沿ったものか注視していく必要があるでしょう。
市民委員の募集要項
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