住民投票、ガリガリ君当たり棒に及ばす
- むさしのニュース代表発行人
- 2022年6月2日
- 読了時間: 4分
武蔵野市が制定を目指した住民投票制度は全国的にみても浸透している制度ではありません。全国約80の自治体が制度をつくったものの、1996年から2020年までの間の実施件数は47件にとどまり、条例は制定したが使われていない自治体が半数弱にのぼります。その一方で最近増加しているのがドイツ発祥の「市民討議会(プラーヌンクスツエレ、PZ)」と呼ばれる制度です。導入を巡って賛否が激しく分かれた住民投票制度よりも市民討議会の制定を目指すべきです。
■ほとんど使われない住民投票制度
■本質を見失った昨年末の議論
■市民討議会で政治家支配から脱却を
実施率は年2%、ガリガリ君のあたり棒に及ばず
住民投票は一般的に、一定数の住民の署名(例えば3分の1以上など)や首長による発議で実施されます。住民数など自治体の規模にもよりますが1回の実施で数千万円の費用がかかり、武蔵野市の場合は1回4200万円と見積もられています。成蹊大学の武田真一郎教授の調査などをもとにした一般財団法人地方自治研究機構のデータによると、1996年以降、条例に基づき実施された市町村合併以外の地域の重要な課題に関する住民投票は47件ありました。このうち投票率が規定に満たず不成立などとなったのは13件でした。
単純平均した年間の実施件数1.88件を制度のある自治体数78で割ると、年間の実施率は2.4%となります。住んでいる自治体に住民投票制度があったとしても、1年間で投票が実施される確率はアイスキャンディーで有名なガリガリ君であたり棒を引く確率(4%)よりも低いのです。
利用が低調なのは住民投票制度そのものに欠陥があると言わざるを得ません。最大の問題は投票課題の十分な周知が非常に難しい事が考えられます。行政側の広報誌や限られた時間での説明会などで、多くの住民に課題や争点を理解してもらうのは極めて困難です。地域の重要課題の解決には時間をかけた討議が必要で、それを抜きにして住民投票を実施しても課題解決とはならず、住民間の分断を招くだけでしょう。

地域の課題解決のあり方の議論を
先行して導入した自治体の事例をみると機能しているとは言い難い住民投票制度。武蔵野市は2021年末の市議会に条例案を上程し大きな騒ぎになりました。外国籍の住民に対して日本国籍と同条件(市内居住3か月以上)で投票権を与えるかどうかが注目され、本来ならば地域の重要な課題解決の手法は何かを議論すべきところが外国籍住民の投票権の是非ばかり注目されてしまいました。賛成派の議員や市民団体は住民投票条例案の賛否を差別問題に置き換え、反対派は「レイシスト(差別主義者)」だと声高に主張しました。
一方で、外国籍住民への投票権に焦点をあてた反対論も展開されました。テレビ出演した保守派の国会議員が「外国人投票権は安全保障にも大きな影響がある」と主張したのはその典型例です。安全保障政策は国の所管であり、地方自治体の条例制定に安全保障問題を持ちだしたことで、外国人投票権の是非を巡る対立に拍車をかけてしまいました。
直接民主主義を担保する市民討議会
外国籍の住民に日本国籍と同条件で投票権を与えると主張し賛同したのは松下玲子市長や立憲民主党、共産党、旧市民の党など革新系の政治家でした。革新系はかねてより外国人参政権の実現に熱心であり、住民投票制度においても日本国籍と同等に投票権を与えるべきとの主張は、革新系のイデオロギーに照らせば当然の主張といえます。
オーストリアの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターは「民主主義は政治家支配」であると述べました。武蔵野市は革新系が市長与党である以上、革新政治家に「支配」されるのは民主主義である以上は仕方がない側面があります。しかしながら、市内には保守から革新までさまざまな意見を持つ住民がいます。多様な市民の意見を反映し政治家支配一辺倒から脱却するには直接民主主義の仕組みを導入することが必要になります。住民投票制度は直接民主主義の代表的な手段ではありますが、制度として機能していない以上は別の仕組みを用意しなければなりません。
そこで提唱したいのが「市民討議会」です。ドイツでは住民投票条例制度の機能不全の反省から、直接政治参加をより容易にする「市民討議会」がつくられました。国内でも導入する自治体数は住民投票制度を上回り、全国で150を超えています。特に関東地方は導入自治体が多く、全体の約4分の3を占めています。
「市民討議会」は地域の重要課題について参加者が時間をかけて徹底的に議論を尽くし、行政は討議結果を受けて課題解決につなげていきます。多摩地区では三鷹市が積極的に活用しており、多摩地区で導入してない自治体は少数派になっています。「市民討議会」は住民投票条例に代わって「民主主義は政治家支配」から脱却する効果を発揮するものと思います。住民投票条例案で市政への関心が高まった今こそ武蔵野市も導入すべきであり、「市民討議会」の第一弾として「地域の課題解決のあり方」を徹底議論することを求めます。
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